平家の亡者が都に現れるようになってから亡者達がそのまま居着いてしまった為、人々は都には住めなくなりほとんどの者が逃亡していった。逆に逃げ遅れた人々は平家の亡者たちに支配され洗脳されてしまっている。京の都は南以外の三方を連なった山々に囲まれていたが、都に跋扈する亡者たちはその周辺の山々ですら寄り付こうとはせず、市井にのみ群がっていた。都を好み貴族化していった平家一門の名残であろうか。
京都ー鞍馬山
鞍馬山は都の真北に位置し、極めて都に近い山の一つである。人が来ることが無くなってしまった鞍馬山のふもとの参道を一人の侍風の男と若い娘が歩いていた。
「ねぇおっさん、そろそろ着くんだよね?」
「ああ、この山の上の方に寺があるが、その更に奥じゃ」
「あんたさぁ、そこに居る人は私が喜ぶ人だなんて言ってたけど、変なオヤジとかだったらすぐ帰るからね!」
「心配せんでええわ!」
それでも娘はゴニョゴニョと呟いていた。(髭モジャで歯が抜けたようなオヤジだったらマジ勘弁なんだけど・・・ここまで来て冗談じゃない・・・)
娘の態度に左膳は呆れていた。(口が悪い小娘だ、あの方が逆にガッカリするんじゃなかろうか・・・)
二人が黙々と歩き続けて数時間が経過し、乱立する大木の奥にひっそりと佇むお堂を見つけ左膳が口を開いた。
「さあ着いたぞ。ここがその場所じゃ」
左膳はそこから目の前のお堂に歩み寄らず、暫くの間ジッと立っていた。
「何してんのさぁ?サッサと行って中の者に声掛けたら」
「まあ待ちんしゃい!」
山奥の静寂の中、二人がジッとしていると、突然バサバサバサと大きな音を立て一体の鞍馬天狗が現れた。
「ウワッ!?」
上から舞い降りてきた烏天狗に薬菜は仰天し、興奮しながら左膳に叫んだ。
「おい、おっさん!ふざけんなよ、やっぱバケモンじゃねぇか!!」
「落ち着かんかい!お前に会わせたいのはこの者ではないわ、この者は従者で、会わせたいのはここの主で中におるわい・・・すまんのぉ、例の娘を連れて来たと主人に取り次いでもらえんか」
「お待ちしておりました。主人は既に気付いておられます。さあ、どうぞ中にお入り下さい」
天狗は恭しく頭を下げて、先に立ち二人をお堂まで誘導し、静かに扉を開けた。
お堂の中はガランとしており、格子から木漏れ日のような光がまばらに床を照らし、その奥に一人の少年が座っていた。
「連れて参りました。ワシは外で待っとりますけ、ゆっくり話してくんしゃい」
左膳はその少年にそう話すと、薬菜の方に向き直り
「あの方がお前に会わせたかったお方じゃ。さあ、中に入りぃ」
「えっ、おい、あの子のことか?」
「他に誰がおる?いいから入りんしゃい!」
そう言うと、薬菜を押し込むように堂の中に入れ、左膳は外から扉を閉めてしまった。