- 2023年8月7日
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歴史ノンフィクション小説 その後の芳一 【第15話】
数日後、維盛は六波羅殿にいた。ここは、かつて六波羅館と呼ばれ、平氏の権勢が最盛期の頃に平氏の拠点になっていた場所で、3千以上の邸宅が立ち並ぶ平氏一門の居住地域でもあった。1183年平氏が都落ちする際に六波羅館は焼き払われ、平氏滅亡後は幕府方の京都守護の拠点として活用されていた。 滅亡後、再び平氏 […]
数日後、維盛は六波羅殿にいた。ここは、かつて六波羅館と呼ばれ、平氏の権勢が最盛期の頃に平氏の拠点になっていた場所で、3千以上の邸宅が立ち並ぶ平氏一門の居住地域でもあった。1183年平氏が都落ちする際に六波羅館は焼き払われ、平氏滅亡後は幕府方の京都守護の拠点として活用されていた。 滅亡後、再び平氏 […]
「奴の足を動けなくしている。今のうちに仕留めろ!」 維盛の背後には藤原忠清が立っていた。土手から動かず維盛と芳一の攻防を眺めていたが、苦戦する維盛を見るに見かねて加勢しに来ていた。藤原忠清は石や木など周囲にあるものを、他のものに変化させる力を持っていて、河原の石をトリモチのようにして芳一の足に貼り […]
亡者の妖力は個々によって差があり、頂点に近い者ほど強い妖力を持ち、妖力の強さは怨念の強さに比例している。またその妖力の種類は一様ではない。しかし、戦死した者と病死した者では怨念の強さが違い、前者の方が遥かに強力であった。平清盛は治承5年(1181年)に病死している。現世で形成されていた平家一門にお […]
翁の反応がないことに異常さを感じ、小金吾は手をかざし軽い念力で翁を刺激した。小金吾が放った念力は微弱であるにも関わらず、翁の身体は風船のように大きく揺れ、ゆっくりと回転し始めた途端「ボッ」と音を立て煙となって消えてしまった。消滅する寸前に喉に扇子が突き刺さっている翁の哀れな姿を見た小金吾は茫然とし […]
芳一は座ったまま読経を続けていた。背後から維盛の手下達がグングン迫っている状況にまるで気づいていないかのように。 小金吾は大きな釣針のような鈎《かぎ》を右手に持ち、その鈎を結付けている紐を左手に持って芳一に向かって突進していていたが、標的まであと10m程度の地点で自らは立ち止まり、他の者達に突っ […]
富士川の河原には大小さまざまな石が無数に転がっていて、川の流れに洗われたせいか皆同じ様に丸く、同じ様に淡い灰褐色をしている。河原の土手沿いは歩くのが困難なほど草木が生い茂り鬱蒼としている。しかし、土手から川の間の平たい部分には限られた種類の草が散在して生えているが、ほとんど木は生えていない。低木が […]
主力の武器を失い、小金吾は焦りながら紐のもう一端に付いている分銅を投げ、芳一を絡め取ろうとしたが、分銅はワンテンポずれて芳一がいた場所に達し、芳一は更に前進し小金吾に迫ってきていた。(南無三・・・)杖頭に反射した月明かりの光が目に入り、小金吾は再び天命が尽きるのを感じた。 「チャリン」と遊環が小気 […]
「いいのか維盛?所従頭が簡単にやられたぞ、お前の手下もやられちまうんじゃねえのか?」 「であれば、小金吾もそれまでという事でしょう」 「ほお・・・随分軽いな」 藤原忠清は維盛の手飼の駒である小金吾が坊主に消されてしまう事を心配したが、維盛は笑みを浮かべて軽く流してしまった。 ヒュンヒュンヒュンヒ […]
維盛は遠江の主要部である国府や国分寺一帯を占拠していた。平家の怨霊たちにとって、人間では到底太刀打ちできない強い妖力を持っていた為、人間を支配下に置くことなど容易いことであった。遠江に現れた維盛一行に対し国府を守っていた衛兵達が応戦したものの、全ての兵士達が瞬く間に妖力によって操られてしまい、あっ […]
「名乗っておこうかい、ワシは左膳《ざぜん》という。坊さん、あんたその朽ちたような杖でワシと戦う気かい?」 左膳は皮肉交じりの笑みを浮かべた。芳一の錫杖は今にもへし折れそうなほど朽ちて見え、武器と言うにはお粗末すぎる。杖頭は銅製であろうが全体が黒ずんでいて、輪が一部ちぎれてしまっている。かつてはこの […]