歴史ノンフィクション小説 その後の芳一 【第10話】

  • 2023年7月3日
  • 2023年7月18日
  • 小説
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「いいのか維盛?所従頭が簡単にやられたぞ、お前の手下もやられちまうんじゃねえのか?」

「であれば、小金吾もそれまでという事でしょう」

「ほお・・・随分軽いな」

 藤原忠清は維盛の手飼の駒である小金吾が坊主に消されてしまう事を心配したが、維盛は笑みを浮かべて軽く流してしまった。

 ヒュンヒュンヒュンヒュンと風を切る音が維盛の所まで届いている。小金吾は同じ立ち位置に同じ体勢で延々と紐で括られた鈎を振り回し、芳一は錫杖を持ち川の中に立ったままピクリともせず小金吾と対峙している。5分ほど鈎を振り回しているが小金吾は踏み込むことができない。翁を倒した時のまま、芳一は地蔵のように全く動いていないので、小金吾は芳一の事を何も読み取ることができずにいたずらに鈎を振り回していた。骸骨のような所従達は翁が司令塔になっていた為、残った5体の所従達はフワフワと宙に浮いたままホバリング状態になっていた。倒れてうずくまっていた翁がようやく動き出し、地べたから幽体離脱するかのように上半身が起きて、そのまま浮き上がり、ヌボーとした様子でその場に浮かんでいた。

 その場から誰も動かない状態が暫く続いていたが、何かを見計らったかのように翁が叫んだ

「かかれーっ!」

 翁は川に入ったまま遥か下流まで流されてしまった自分の扇子を妖力で引き戻し、その扇子が芳一の間近に飛び帰ってきたタイミングを見計らって、所従達に号令を掛けたのであった。扇子はクルクル回転しながら大きな弧を描いて猛スピードで芳一目掛けて飛んできた。と同時に刀を振りかぶった5体の所従達もスピードを上げ芳一に突進した。

 川の中で膝まで浸かった状態で直立していた芳一が「ザバッ」と水しぶきを上げ足を開くと、素早く錫杖を一回転させ、猛スピードで芳一に向かってきた扇子を跳ね飛ばし、続けざまに錫杖を振り回して間合いに入り込んできた所従を次々と斬り伏せていった。杖頭が当たった瞬間「ボッ」と音を立て、所従は煙となって蒸発してしまい、立て続けに4体の所従が芳一によって消された。その様を目の当たりにした小金吾の回転していた鈎は、いつしか回転するのをやめ地べたに転がっていた。(なんなんだこの坊主は!?・・・なぜ我らと戦っているんだ?)小金吾は訳が分からず混乱していたが、我に返り斜め前方にいる翁を見やった。翁も混乱しているのか、直立不動で宙に浮いたまま動かずにいるのを小金吾は不審に思い

「おい、翁!」

 と声を掛けるが、全く反応もなく全く動きもなく、川の方に向いたまま案山子のごとく佇んでいた。

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