歴史ノンフィクション小説 その後の芳一 【第13話】

 亡者の妖力は個々によって差があり、頂点に近い者ほど強い妖力を持ち、妖力の強さは怨念の強さに比例している。またその妖力の種類は一様ではない。しかし、戦死した者と病死した者では怨念の強さが違い、前者の方が遥かに強力であった。平清盛は治承5年(1181年)に病死している。現世で形成されていた平家一門における相関的な力関係は、常世では必ずしも同じではなかった。

 平維盛は平重盛の長男で、言うまでもなく清盛の孫にあたり、嫡流の血筋ということからかなりの力が備わっていた。

 芳一と対峙している維盛は一撃で仕留めるつもりで、正面切って芳一に突っ込んでいった。自分の部下が瞬く間に全滅させられたのを目の当たりにしているにも関わらず、芳一の強さを受け入れようとせず、あくまでも琵琶を持った貧弱な坊主として芳一を扱いたかった。維盛は強いエネルギーを持っている為、一挙手一投足にエネルギーをまとわせることができ、大木すら一撃でなぎ倒す力を持っていた。右手を上に挙げて構えると維盛は芳一の胸元に渾身の一撃を繰り出したが、錫杖で簡単に払われてしまい「ウヌ・・・」と、的を外して声を漏らした。飛来する溶岩のごとく赤いエネルギーをまとった手刀を次から次へと矢継ぎ早に放ち、即刻芳一を始末する気でいた。(こやつ目が見えぬはず・・・なぜ攻撃を見切れるのだ!?) 芳一は維盛の攻撃をことごとく防御していた。

 手刀は炎のように揺らめく赤い光に包まれ横殴りの雨のごとく芳一に降り注いだ。維盛は50発ほどの手刀を放った後、ふいに芳一の顔を突き上げるような蹴りを繰り出した。芳一が素早くのけ反り、そのまま後方に宙返りした直後、チャンスとばかりに維盛は掌を広げて芳一に向けた。すると、維盛の掌から抜け出すように白い大蛇が出てきて芳一に襲いかかった。芳一が咄嗟に右手を自分の顔の前に出し、方合掌をしながらお経を唱えると、維盛が出現させた白い大蛇の身体中に大きなお経の文字が浮き出て、大蛇は苦しむように大きく身体をくねらせながら破裂して消えてしまった。

 白い大蛇を消されても維盛は全く怯むこと無く、更に間髪入れず芳一の前に踏み込んだ。全身が赤い光で包まれ、繰り出した右の手刀突きは肉眼では捉えることができないほどの速さで芳一に襲いかかり、その突きを阻止しようと芳一は右手を繰り出した。芳一の手は獲物を掴み取るかのごとく鷲の爪のような形をし、維盛とは対象的に青白い光を放ちながら維盛の腕に襲いかかった。

 二人の腕が獲物を捕らえた瞬間、お互いの顔が苦痛に歪んだ。維盛の手刀は芳一の左肩に突き刺さり、芳一の爪は維盛の右腕にのめり込んでいた。「チッ」舌打ちをした維盛は跳躍して芳一の胸を蹴り、それをバネに飛び上がって、大きく宙返りをしながら後方に退き間合いを取った。(なんて奴だ、本当にあの琵琶法師か?)

 

 

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