歴史ノンフィクション小説 その後の芳一 【第14話】

「奴の足を動けなくしている。今のうちに仕留めろ!」

 維盛の背後には藤原忠清が立っていた。土手から動かず維盛と芳一の攻防を眺めていたが、苦戦する維盛を見るに見かねて加勢しに来ていた。藤原忠清は石や木など周囲にあるものを、他のものに変化させる力を持っていて、河原の石をトリモチのようにして芳一の足に貼り付けていた。いくつかの石が溶けているかのように芳一の足に付着し思うように足が動かせなくなっているが、上半身や手や頭は普通に動く。にも関わらず、芳一はまるで動かない。

「なんじゃ奴は、やけに大人しくしとるが、足が動かんことに気付いてない訳じゃあるまいな?まあいいわ、維盛、早く始末しろ!」

 維盛は軽くうなずき、右手を挙げた。維盛の右手はたちまち真っ赤に揺らめき、芳一に向けられた。

「常世で琵琶を聞かせてもらおうか、芳一」

 ニヤリと笑い、維盛は真っ赤な波動を放出し、波動は閃光を放って勢いよく芳一に向かって延びていった。芳一は錫杖をもったまま直立していたが、再び右手で片合掌し経を唱えた。赤い波動が直撃する寸前、経を唱える芳一の身体から白い煙の塊が出て、すぐにある姿に形成された。

「ばかな!!」

 形成されて飛来してくる白い造形物を見た途端、維盛は凝然とした。それは、紛れもなく維盛が芳一に向けて放った白い大蛇であった。大蛇の身体には、先刻破裂する直前に浮き出ていたように、お経の文字があちこちに浮かび上がり、赤い波動を分解してかなりの勢いで維盛と忠清の立っている場所に突進してきた。

「ウグッ」

 維盛は白い大蛇が接触した瞬間、強い衝撃を受け声を漏らした。二人は避けきれず飛ばされ、維盛は辛くも宙返りをして着地したが、藤原忠清は真っ向から衝撃を受け、仰向けに倒れた状態で地面を削りながら後方に滑っていった。石ころを跳ね除けゴリゴリ音を立てながら、忠清は20メートル程度押し飛ばされた為、被っていた兜はボロボロに粉砕し頭は血まみれであった。そもそも平氏の者たちは既に亡者と化しているため、幻影と同じで直接攻撃を受け損傷するようなことが無いはずであったが、芳一の攻撃は亡者の姿でさえ破壊していった。

 着地した維盛は、瞬間移動して忠清を抱きかかえ、更に瞬間移動してセセリのいる土手の上に戻ってきた。

「セセリ、すまぬがオヤジを頼む。これでは自力で戻れまい、介抱してくれ」

「維盛様、まさかまだ闘う気で?」

「心配するな、その気はない。おとなしく六波羅殿の叱責を受けよう」

「クスッ、ではそうしてください。先に戻っています」

 セセリは忠清と共に煙となりその場から姿を消し、維盛は河原の方へ向き直り、小さく見える芳一の影を見つけた。(あれから全く動いていない・・・)

 維盛は再び芳一の前に現れた。

「芳一、何をしようとしているのか知らんが、貴様を許すわけにはいかん。この礼は必ず返す!」

「そうしてくれ」

「余裕だな・・・ひとつ聞かせてもらおう。どこに向かっている?」

「京だ」

「クックックッ 一騎当千か。待っているぞ、芳一!」

 維盛も去り、一人になった芳一は元の川べりに座り、手を合わせてお経を唱えだした。

 

 

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