- 2023年7月4日
- 2023年8月2日
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歴史ノンフィクション小説 その後の芳一 【第12話】
主力の武器を失い、小金吾は焦りながら紐のもう一端に付いている分銅を投げ、芳一を絡め取ろうとしたが、分銅はワンテンポずれて芳一がいた場所に達し、芳一は更に前進し小金吾に迫ってきていた。(南無三・・・)杖頭に反射した月明かりの光が目に入り、小金吾は再び天命が尽きるのを感じた。 「チャリン」と遊環が小気 […]
主力の武器を失い、小金吾は焦りながら紐のもう一端に付いている分銅を投げ、芳一を絡め取ろうとしたが、分銅はワンテンポずれて芳一がいた場所に達し、芳一は更に前進し小金吾に迫ってきていた。(南無三・・・)杖頭に反射した月明かりの光が目に入り、小金吾は再び天命が尽きるのを感じた。 「チャリン」と遊環が小気 […]
「いいのか維盛?所従頭が簡単にやられたぞ、お前の手下もやられちまうんじゃねえのか?」 「であれば、小金吾もそれまでという事でしょう」 「ほお・・・随分軽いな」 藤原忠清は維盛の手飼の駒である小金吾が坊主に消されてしまう事を心配したが、維盛は笑みを浮かべて軽く流してしまった。 ヒュンヒュンヒュンヒ […]
維盛は遠江の主要部である国府や国分寺一帯を占拠していた。平家の怨霊たちにとって、人間では到底太刀打ちできない強い妖力を持っていた為、人間を支配下に置くことなど容易いことであった。遠江に現れた維盛一行に対し国府を守っていた衛兵達が応戦したものの、全ての兵士達が瞬く間に妖力によって操られてしまい、あっ […]
「名乗っておこうかい、ワシは左膳《ざぜん》という。坊さん、あんたその朽ちたような杖でワシと戦う気かい?」 左膳は皮肉交じりの笑みを浮かべた。芳一の錫杖は今にもへし折れそうなほど朽ちて見え、武器と言うにはお粗末すぎる。杖頭は銅製であろうが全体が黒ずんでいて、輪が一部ちぎれてしまっている。かつてはこの […]
薬菜は自分のすぐそばに座っている「芳一」という坊主が気になって仕方がなかった。笠を深く被っている為、目元がはっきり見えている訳ではないが、芳一が目を開けているのを一瞬たりとも確認することができず、どう見ても目をつぶっているようにしか見えない。普通の人であればキョロキョロと周辺の景色を見たり、飛んで […]
文治元年(1185年) かつて栄華を極め権勢を誇った平氏は、源氏との戦いの末、壇ノ浦に破れ滅亡した。平家一門の深い怨念はいつまでも消えることはなく、言霊《ことだま》となり戦地となった場所に彷徨い続けた。やがてその言霊は怨念が強すぎるが故に生前の姿として現れるようになり、死人として蘇った平家の者たち […]
続けざま、男に背を向けていた坊主がふいに反転して錫杖の先端で、男の体を大きく切り裂いた。 「グエーッ!」 男は絶叫しながら地べたにひざまづき、肩で息をしながら坊主を見やった。 「貴様・・・俺が・・・平氏の者と知ってのことか・・・?」 「もちろん、知っている。お主、平知度《とものり》であろう」 「 […]
背中に手を廻して箙《えびら》の様な筒に入っている両節棍を取り出し「ヒュンヒュン」と、音を立てて振り回しだした。男はあざ笑うかのように口元に笑みを浮かべている。薬菜は逃げていた時とは一変して紅潮した怒りに満ちた顔で男に突進し、飛び上がりながら手にした両節棍を男の顔めがけて思いっきり振りかざした。しか […]
鎌倉期-寛喜二年(1230年) 富士川の河川沿いの土手道を一人の男が歩いている。土手沿いには菜の花があちこちに咲き乱れ、河川敷の石ころだらけのつまらない景色に華やかな彩りを加えていた。菜の花が放つ独特の香りは春を感じさせ、川の水と同様に山から流れ込む風が、その春の匂いをあたり一面にまきちらしてい […]